膀胱腫瘍

監修者
平野 太陽

適応疾患

  • 膀胱癌

膀胱発生の移行上皮癌は極悪で知られる悪性腫瘍です。根治を目指し、膀胱+尿道+陰茎一括切除を実施するも、転移する症例がほとんどです。根治を目指せる場合もありますが、非常に強い痛みと合併症を覚悟しなければいけません。またオムツ生活も避ける事ができません。電気化学療法では根治はできないものの、病変を消失させること(寛解)が可能で、その割合は6割を超えます。(Rangelら, 2023) 繰り返しの実施も可能で、これまで通り自力で排尿が可能です。

傷の大きさの比較

根治切除

目的
根治
痛み
大きい
尿失禁
あり
入院期間
10日

電気化学療法

目的
緩和
痛み
小さい
尿失禁
ない
入院期間
3日

電気化学療法の手順

ステップ①
毛刈り消毒

滅菌を保つため、毛刈りと消毒を実施します。腹腔鏡手術であるためリスクは低いですが、徹底した感染防止対策を講じています。

ステップ②
膀胱引き出し

スマートリトラクターを使用し、膀胱を最小限の切開孔から体外に引き出してきます。

ステップ③
ドレープで播種防止

プラスチックドレープで膀胱を単独露出させ、膀胱内の腫瘍が播種することを防止します。

ステップ④
ガーゼで播種防止

ドレープの上から20枚程度のガーゼを膀胱の下に敷き詰めます。膀胱腫瘍は非常に播種転移しやすいため、厳重に防止策を講じます。

ステップ⑤
膀胱反転

膀胱を切開し、反転させます。画像では反転した膀胱内部から癌(赤黒い部分)がせり出しています。

ステップ⑥
抗がん剤注入1

癌に直接抗がん剤を注入します。シスプラチンという膀胱癌に非常によく効く抗がん剤です。通常猫には使用禁忌ですが、直接注入の場合は使用できます。

ステップ⑦
抗がん剤注入2

抗がん剤を副作用が起こらない程度の少量、静脈内に注入します。本来であれば殺腫瘍効果がない程度の微量になります。

ステップ⑧
時間計測

抗がん剤注入から通電までの間隔は8分に設定しています。

ステップ⑨
電気化学療法機で通電

8分後、通電を開始します。通電機の先端は剣山型やプレート型など様々な種類を用意しています。腫瘍細胞周囲の正常組織まである程度含めて満遍なく通電します。

ステップ⑩
膀胱縫合

膀胱反転を解除し、元通り縫合します。

ステップ⑪
皮膚縫合

腹壁、皮膚を縫合し手術終了です。

ステップ⑫
痛み止めを貼る

術後は患部がズキズキ痛むので、麻薬の痛み止めを皮膚に貼り付けます。投薬なしで効果が数日間持続します。

ステップ⑬
2日後退院

尿道カテーテルを2日間設置する必要があるため、お泊まり入院になります。2日後元気に歩いて帰るうしろ姿が可愛いです。

監修者情報

平野 太陽

センター長

右京動物病医院OIKEをはじめ3病院4施設を運営。
獣医腎泌尿器学会 認定医。日本動物病院協会(JAHA) 総合臨床 認定医。
人間の医師の腹腔鏡技術 世界大会(団体の部)優勝。
Advanced Laparoscopy Masterclass in Bucharest(ルーマニア) ~腹腔鏡マスタークラス修了。
奈良動物二次診療クリニック第6期研修修了(腫瘍科、画像診断科、整形外科、軟部外科) NARCシニア研修修了。
『動脈塞栓術を利用した腹腔鏡肝腫瘍切除』を世界で初めて成功し世界内視鏡学会2025にて報告。

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いつでもお待ちしています。

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